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・・・・交渉・・・・
 私たちには借金はあっても貯金は全く無かった。 引越ししようにも次の敷金が用意できないのだ。
 日々のお金は用意できるが、数十万を一気に用意するなど無理だった。
 そこで私はつれあいと話し合い、犬の迷惑料として毎月の家賃に1万から1万5千円を上乗せすることで大家に了解をとろうと考えた。

 原因を作った不動産屋にも電話し、家賃の上乗せの件とともに、抗議もした。
 これでは話が違うと。
 しかし、不動産屋が大家に電話してとりなそうと私に最初にしたような話をしたらしいが、逆に
「自分のマンションで犬が飼われているとは知らなかった。 他に居るなら探して捨ててもらう。 」
という返答が帰ってきたというのである。

 上乗せはおろか、他人にも被害が及ぶ結果となってしまった。
 私は引っ越すまでの間の「犬の預かり先」を探すから待ってくれと訴えたが、答えはこうだった。

「1ヶ月だけ待つ。1ヶ月以内に見つからず、引越しも無理なら処分(保健所)してくれ」
・・・・野犬狩り・・・・
 ちょうどその頃、近所に野犬狩りが来た。私は家に居たのだが、外のようすが騒がしいので、ドアを開けて出てみた。
 まさにその時が、1Fである私の部屋の前の廊下で、小さな野良の子犬が捕まる瞬間だった。
 この子犬は近所の子供たちに可愛がられ、いつも抱き上げられていた。この日は外から地続きになっているマンションの廊下で遊んでいたのだろう。
 子犬は、たやすく首に輪をかけられ、高く短い悲鳴を何度かあげた。
 そしてそのまま、マンションの廊下を引き摺られるように連れていかれた。

 すると、私のすぐそばでこの事態を見ていた同じマンションの独身女性が
「私、怖かったから電話したけど捕まってよかった」
と私に話しかけてきた。
 本当に怖いのは自分が嫌いなだけで子犬の死を願い、これから死ぬのを知って「良かった」と言えるあなたの心ではないのかと私は思った。

 私に遅れて事態に気がついたつれあいや、近所の子供たちの親など数人が保健所の車のほうにすっとんで行き、何事が抗議していたようだった。
 しかし保健所から来た職員が
「この仕事は皆が嫌がるので専属ではなく持ち回りでやっている。自分も犬が好きだが、通報があれば誰かが来てやるしかたないのだ」
と答えたそうで、誰もが肩を落として帰ってきた。
 このあたりは皆、小さなマンション・アパートばかりだ。誰も犬を飼える人間など、いなかった。

 簡単に保健所を口にする大家や周囲の人間が化け物にすら思えた出来事だった。
・・・・猶予は1ヶ月・・・
 私たちには借金があり、しかもつれあいは新しい職についたばかりで、貯金もなかった。
 そのため、敷金を作るには 今から貯金をするしかなかった。
 借金の返済もあるが、半年も必死で貯金すれば、なんとか敷金を貯める事ができるだろう。

  この時、私が働けたていたなら 必死になって3ヶ月もはたらけば お金の都合はついただろう。
 実は なんというタイミングか、私は店を閉める話が出る少し前に 妊娠が判明していた。
 この騒ぎのさなか、私は臨月に近い状態になっていたため、1日中働く事すら選択できなかった。

 犬の預かり先探しは難航した。
 ついには既に犬を飼っている私の両親にも頼んでみたが断られた。
「お願い 半年だけ 半年だけ預かってください。 必ずひきとります。 病気になったら病院代も出します。 もしもの事があっても絶対文句はいいません」
そして、親戚に聞くだけ聞いていてみると言われ、私はそれを待った。

 少しして、親から連絡があった。
 親戚から、犬を預かるのはだめだが 貰うということなら引き受けると返答があったという。それは昔からよく知っている人で、信頼できる家族だった。
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